田螺長者 その5
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花っこよりも美しい嫁子をもらって、父母の喜びはものの例えにも比べられない。それにまた嫁っ子が実の父母よりも親切に仕える。野良へも出て働いてくれるので、前よりもずっと暮らし向きも楽になったど。これもみな神様のお陰だと言って父母は一生懸命に御水神様を拝んでいたど。
そのうち日が経ってからお里帰りをいつにしようと相談すると、やっぱり4月8日の村の鎮守の薬師様の祭礼が済んでからということにしたど。また日が経ってから春になって花っこも鳥っこらも飛んできて鳴くようになったど。そして薬師様のお祭りの日娘はお祭りさいぐって、きれいにもよって化粧してみだど。そしたらなんとも綺麗でまるで天人子とみちがえるほどだったど。仕度が出来て娘は田螺の夫に向かって「あなた様も一緒にお祭りに行きましょう」と言うと「そうかそれではおれも連れて行ってヶ申せ。今日は幸いお天気もいいから久しぶりで外の景色でも眺めて来るべ」などといったど。そこで娘は自分の帯の結び目に夫の田螺を入れてお祭りさ行ったど。その途中も二人は睦ましく四方山話をしながら行くど、道往く人や行きずりの人達は、あれあんなに美しい娘子が、独りで笑ったり、話っこしたりして行くが。可愛想に気でもきがったものだべなァといって眺めて行ったど。そんな風だから娘っこには何事もなく無事御薬師様の一の鳥居の前まできたど。すると田螺は、これこれ、おれは訳あって、これから先には入れぬ、どうか道ばたの田の畔の上に置いてけろ。そのうち俺はここで待っているからと言ったど。娘はそれでは気をつけてカラスなどに見つけられないようにして待っていてください。私は一寸行って拝んでくるからと言って御坂を登って行ったど。そして御堂に参詣して帰って来て見ると、大事な夫の田螺がいねぐなってらど。
娘は驚いて、そこいらじゅう探して見たけどなじょしてもどごさ行ったがみつかんねがったど。カラスが啄んでとんでいったが、それとも田の中に落ちだがと思って、田の中さ入って探したが、4月にもなったから田の中さいっぺ田螺がいでそれを一つ一つ拾い上げて見るけど、どれもこれも自分の夫の田螺とは似てもにつかぬものばかり
ツブ(田螺)やツブ(田螺)や
わが夫や
今年の春になったれば
カラスという馬鹿カラスに
ちっくらもっくら
刺されたか・・・
と歌って、田から田に入ってこぎ探しているうちに、顔は泥、着物は汚れて、日も暮はじめお祭りに来た人達もみな帰り始めて娘を見て、あれあれ可愛想にあんな綺麗な娘っこが気でも違ったが・・・と口々に言って眺めて通ってたど。
まだまだまだ続くよ
その6
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