田螺長者 その4
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お膳の縁にタカッテいる田螺は、他人の目には見えぬが、お椀のご飯がまず先になくなり、その次には汁物が、魚がという風になくなって、仕舞に「もう充分頂きんした、どうぞお湯を」と言ったど。檀那様は、かねて御水神様の申し子が田螺の息子だと言う事は聞いていたが、こんなに不思議な物とは思っていなかった。ちょうど人様のように物を言ったり働いたりするべとは思わなかったので、これを自分の家の宝物にしたいと思ったど。そして「田螺殿お前様の家とおれの家とはお互いに祖父様達の代から代々出入りの間柄の仲だ。おれのところに娘が二人いるが、その仲の一人をお前様の嫁にやってもいい」と言ったど。こんな宝物をただで家のものにすることは出来まいと思ったからだど。
田螺はそれを聞いて大層喜んで、それは真実かと念を押した。だんな様は、本当だとも、二人の娘のうち一人を挙げようと固い約束をして、その日は田螺にいろいろなご馳走をして還したど。

父親母親は、田螺のこと「なんたら帰り遅ベ、途中で何かあったベガ」と案じているところに、田螺は三頭の馬を連れて、えらい元気で帰ってきた。そして夕飯時に、おれは長者ドンの娘さんをお嫁にもらってきた。と言ったど。父母はそんなこたあ有るはずねと目を見合ったど。でも御水神様の申し子の言うことだがら、一応長者ドンに人をやって訊いてみべえと思って伯母を頼んで訊きにやると、田螺の言うのは真実のことであったど。
そこで檀那様は二人の娘を呼んで、お前たちのうちどちらかが田螺のところに嫁に行ってけろと言うと、姉娘は「誰が虫けらのところなんかさ嫁く者があんべや、おらやんだ」と言ってドダバダと荒々しい足音を立てて座をケッタテテ行ってしまったど。それでも優しい妹娘のほうは、「トト(父)様が折角ああ言うて約束された事なんだから、田螺のところには私が嫁に行くから心配しながんすな」と言って慰めた。伯母はそういう長者ドンからの返辞を持って帰ってきて知らせたど。

長者ドンの乙娘の嫁入り道具は、七頭の馬にも荷物がつけきれないほどで箪笥、長持ちが七棹ずつ、そのほかの手荷物は有り余るほどで、貧乏家にはそれが入りきれないから、長者ドンでは別に倉を建ててくれた。聟の家には何もない。親類もないから、父母と伯母と近所の婆様とを呼んできてめでたい婚礼をしたど。

まだまだまだ続くよ
その5

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